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Chapter 4

舞台照明のつくり方   ワンポイントアドバイス

 

【前明かり】

客席側から舞台を照らす明かりのことを“前明かり”といいます。“前明かり”のための照明設備として、主に、客席天井部の“シーリングライト”と客席の両側壁面に設備された“フロントサイドライト”があります。登場人物の表情や演技をよく見せるためには、前からの明かりは欠かせませんが、この明かりが強すぎると舞台は平板になることがあるので注意が必要です。また、“フロントサイドライト”は、斜め前からの明かりなので、舞台上の光の方向性を考慮した使い方が求められます。

“前明かり”で使用する
スポットライトの例

 

【ステージサイドスポット(S.S)】

スタンドやタワーにスポットライトを設置し、舞台の袖幕の間から舞台を照射する可搬式の照明器具を“ステージサイドスポット(S . S)”といいます。S . Sによる横からの方向性のはっきりした明かりは、人物や舞台装置を立体的に見せるだけでなく、時間の経過に伴って光の方向が変化する明かりづくりなどに有効に活用されます。また、紙吹雪を使った雪の降るシーンでは、舞台の両サイドのS . Sを使って、下から斜め上に光を当てることで、美しい劇的な効果をあげることができます。

 

【地明かりサス】

“地明かり”は、二つの意味で使われます。一つは、舞台上での作業のために、ボーダーライトで舞台全体を明るくすること。もう一つは、舞台上部に設置されたスポットライトによって、演技エリアにフラッドな明るさをつくることです。これは“地明かりサス”ともいいます。
“地明かりサス”は、舞台床面に当たるスポットライトの明かりの輪を重ねて繋ぎ、ムラのない明るさになるようにつくります。明かりを重ねる高さは、跳び上がったり、手を上げたりする演技があることを考慮に入れて、人物の動きによって顔や身体が明かりからはずれないように合わせます。

 

【ぶっちがい】

“ぶっちがい”は、舞台照明づくりの現場で使われる言葉で、斜めからの光を交差させるという意味です。両サイドのサスペンションライトの光をそれぞれ反対側へ照射し、光を交差させることで舞台上にフラッドな明るさをつくります。“地明かりサス”の明かりに、この“ぶっちがい”の明かりを加えることで、演技エリアに明るくムラのないフラッドな舞台照明が完成します。また、片方向からの光の方向性を強調した明かりをつくりたいときには、“ぶっちがい”でつくった明かりの片方の光量をおさえることで容易につくること ができます。

 

【サス残し】

サスペンションライトを使った明かりづくりのひとつに、芝居の幕切れなどで一本のサス明かりだけが一人の人物を捉えて、最後のセリフや演技を観客に強く印象づける“サス残し”があります。演技と明かりの操作のタイミングを合わせることで、余韻を残す舞台効果が得られますが、真上からのサス明かりでは人物の顔に影ができるので、やや前方上からのサス明かりになるように立ち位置やスポットライトの設置位置を設定するか、フォロースポットライトなどを用いて表情を見せるようにすることがあります。

 

【ころがし】

人物や舞台装置に対して、下方向からの明かりを効果的に使いたいときに用いられるのが“ころがし”です。舞台上に照明器具が転がしてあるように見えることから“ころがし(フットライトスポット)”と呼ばれますが、舞台床面に照明器具を直に置くことは大変危険ですので、必ず床置き用の平置ベースを使って照明器具を設置します。建物や樹木などの舞台装置に、上からの明かりだけでなく、下からの明かりを加えることで美しく見せたり、ホリゾント幕に下から上に向けての光のラインをつくる“ホリサーチ”などに使用されま す。

“ころがし”で使用する
スポットライトの例

 

【ホリゾント幕を染める】

舞台上部に設備されたアッパーホリゾントライトと舞台床に置かれたロアーホリゾントライトは、舞台奥のホリゾント幕を染めるための照明器具です。“染める”という言葉が使われているように、ホリゾントライトから照射された光はホリゾント幕の布に反射し、幕そのものを染めたように見せてくれます。晴れた日の抜けるような青空、夕暮れの茜色、さらには季節感や天候、時間の経過などを、ホリゾント幕を染める色の変化によって表現することができます。

“アッパーホリゾントライト”で
使用する照明器具の例

“ロアーホリゾントライト”で使用する照明器具の例

 

【フォローピンスポットライト】

フォローピンスポットライトには、観客の視線を集中させ、舞台上の重要な人物の演技や動きをピックアップして見せるという役割があります。舞台上につくられた照明プランのなかに、人物に合わせて動く明かりが入ってくるわけですから、全体の明かりのバランスや雰囲気をこわさないような、「色」、「明るさ」、「フォーカス」でフォロー明かりを組み込む必要があります。また、フォロー明かりの点け方、消し方にはさまざまなテクニックがあり、その操作のキッカケも重要です。演出の内容を理解し、リハーサルを繰り返して、正確な操作をすることが求められます。このライトは、センターピンスポットライトとも呼びます。

“フォローピンスポットライト”で
使用するスポットライトの例

 

【欄間(らんま)吊り】

舞台上に家屋などの建物の大道具が組まれ、そのなかで演技がおこなわれることがあります。こうした舞台装置を「屋体飾り」といいますが、屋体のなか(室内)を明るくし、演技を見せるために仕込まれるのが「欄間吊り」です。欄間とは、日本家屋の天井と鴨居の間の開口部を指す言葉ですが、舞台照明では観客には見えないように大道具の裏側に取り付ける照明器具の仕込みを「欄間吊り」と呼んでいます。大道具の裏側に釘を打ち、バインド線でストリップライトなどの照明器具を吊るといった仮設の仕込みなので、大道具のスタッフと事前に相談し、設置する位置や強度の確認をおこなうなど、安全性に充分配慮することが必要です。

“欄間吊り”で使用する照明器具の例

 

【フットライト】

フットライトは舞台最前部に舞台の間口に合わせて設備される照明器具で、文字通り足下から舞台全体を均等に照らす目的で使用されます。フットライトの明かりは、舞台全体を明るくし、特に衣裳を明るく華やかに見せる効果があり、歌舞伎や日本舞踊、ミュージカルなどの舞台では欠かせない照明設備です。「脚光を浴びる」という慣用句の「脚光」とはこのフットライトのことを指します。
フットライトの明かりは、強すぎると背景に影が重複して出たり、人物の顔にも下方向からの明かりによる不自然な影ができ、表情がわかりづらく、きれいに見えなくなることがあります。舞台全体の明かりのバランスと人物の見え方を考慮しながら、明るさを調整したり、舞台上部からの明かりを使って、不必要な影を消すなどの工夫が必要になってきます。

“フットライト”で使用する照明器具の例

 

【バックライト】

舞台奥のライトバトンに仕込んだ照明器具を使い、登場人物の後方上部から光を当てる手法を「バックライト」といいます。人物の表情を明るく見せる前からの明かりとバックライトをバランス良く併用することで、人物の見え方が平板にならずに立体的に見せることができます。また、前からの明かりを抑えバックライトを強調することで、逆光の中で人物をシルエットで見せるといった効果をつくることもでき、演劇の舞台だけでなく、ロックコンサートやダンスのステージなどでも人物の存在感をドラマチックに印象づけたいときなどによく用いられます。バックライトを上手に使うことで、照明による表現の面白さは大きく広がりますが、光の方向性が観客に向かっているため、「目つぶし」の効果を狙うなど、意識的に観客に向ける以外は、光が観客の視界に入らないようにセッティングするなど、使い方には充分な配慮が必要になります。

“バックライト”で使用する照明器具の例

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